溺愛されてもわからない!

「ちょっとごめん」
一夜は立ち上がり
部屋の照明を点けて驚いた顔で私を見る。

「えっ?」
「えっ?」

ふたり
シンクロに変な声。

「ちょっと待って、すみれちゃん。最初から話して『さよなら』って?」

「えーっと」

最初から最初から
話し忘れてたのは……そう

「大事な話を忘れてた。そうなんだよ、雫さんが来てくれて、すんごく私を心配してくれていて、謝ってくれたの。嬉しかった。本当はすぐ仲直りしたかったけど、つい意地張ってごめんって……」

「そこじゃなくて!」
目が怖い。
せっかくのイケメンが怒ると台無しよ。

「えーっとえっと」
獲物を追いつめる動物みたいな顔してるし。
そんな顔されるとこっちが焦っちゃう。

「……担任の先生が来て」

「違うって!夢の話だろう。あんなにすみれちゃんが大好きな夢が、自分からさよならなんて言うわけない。何があった?つまらない事でケンカした?」

真剣に聞かれると
何て言っていいのかわからない。

「僕に言えない?」

言えない。
一夜が好きって自分でわかったけど
それは
今さらな話で
彩里さんがいるのに
もう遅いでしょうって事実。

そして
あんないい人の夢君に
自分の勝手で『ごめんなさい』して
落ち込んでるって

言えない。




< 354 / 442 >

この作品をシェア

pagetop