ダブルベッド・シンドローム




─看護師時代、院内で使っていた、複雑で大きな医療機器には、だいたい「DOSHIMA」の青いロゴがついていた。

余計なものは書いていない、シンプルな文字だった。

そのロゴには水のような清涼感があって、それは慶一さんの持つ雰囲気に似ていた気がする。


そのころの私は、株式会社DOSHIMAについて正確なことは知らないし、当たり前だが、知ろうとするきっかけも特にはなかった。

しかし、自分の中で院内を国内に置き換えていたので、その中では医療機器におけるシェアは常にトップであると感じていた。

そのせいか、慶一さんを初めて見たとき、なぜかどこかで会ったようなことがある気さえした。
慶一さんだけではない。社長さんも、その秘書の北山さんもだ。

どこかで会ったことがある気がしたのだ。

しかし、あんなに顔の整った親子は一度見たらそうそう忘れないはずなのだが、どこで会ったのかはついに今まで思い出せていない。

そもそも会ったことがあるのか、いつも視界に入ってきたロゴのせいで錯覚しているのか、それすらも分からなかった。




配属された総務部は、当たり前だが女性ばかりであった。

デスクがいくつかの島を作っていて、私も五つのデスクが向かい合いくっついた、とある一つの島に加えられた。

そこは大変分かりやすいメンバー構成であり、その島の四人を覚えることに苦労はしなかった。

五十代くらいの磯田さんと、四十代くらいの森さん、三十代くらいの前原さん、そして同い年くらいの市川さんだった。


「宮田さんって専務の婚約者なんでしょ?偉いんじゃないの勤めに出ようってんだから。あたしは旦那の稼ぎが良けりゃすぐ辞めちゃうよ仕事なんて。それで、どうやってあの専務を落としたんだい?可愛い顔してるけど、仕事仕事って人だろ、あの人。」


向かいに座っている磯田さんは、相手について知りたいことを何でも聞くタイプの人だった。


「いやあの、落としたとか、そういうのじゃありませんよ。身内同士で、その、ご縁があって。とても私なんか釣り合ってないのですが。」

「ああ、そんなこと言って。気をつけなよ。弱気になってると、専務なんてモテモテなんだから、すぐメス猫に獲られちゃうよ。市川ちゃんとかね。」


磯田さんは、私の隣にいる市川さんに目線をやった。


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