ダブルベッド・シンドローム



「やだもう、磯田さん、やめて下さいよ。専務は格好いいから目の保養だったんですよ。それだけです。専務のお嫁さんを前にしてそんな暴露しないで下さい。パワハラですよ。」


磯田さんと市川さんは、おそらく親子ほどの年齢差があるようで、だから会話が弾むのだった。
私は二人の会話を聞いているのが面白かった。

森さんと前原さんも会話に参加し、笑っているが、この二人の本心はよく分からなかった。

しかし建前上、この島は平和だった。


それもこれも秘書の北山さんが、私がここへ来る前に、総務部の人たちに私のことを慶一さんの婚約者として紹介し、トラブルのないようにと言付けていたからだと、後で磯田さんから聞いて知った。



ここの仕事は、初日だからとか関係なく、楽なものだった。

座って、お茶を飲みながら、ときどき談笑をすることができるなんて、それだけで私に言わせれば「楽」であった。


「でもね宮田さん、結婚は分からないものなんだよ。お金持ちでイケメンと結婚したからって幸せになるとは限らないんだから。例えばあたしが結婚したのが旦那じゃなくて専務だったとしても、今より幸せにはなれなかったよ。うちのバカ息子とバカ娘が生まれなかったわけだからね。専務に似たんじゃ、バカにはなれないだろ。あの子らが別の子だったら、幸せじゃなかったよ。」


磯田さんの言っていることは、それなりに深いと思ったし、今後の人生の参考にもなると思ったが、私はこれ以上この話題を続けたくはなかった。

なぜなら、もしも、森さんと前原さんが既婚者ではなかった場合、この話は大層なストレスとなっているだろうと考えついたからである。

そしてその可能性が高いこともうっすらと気づいていた。

「私の旦那も」「私の息子も」そんな相槌を打てるところは何度もあったのに、森さんと前原さんはニコニコと笑っているだけで、口を挟んでこないからだ。

それどころか、その笑顔の裏に、メラメラと別の感情が沸き上がっているように思えて仕方なかった。


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