ダブルベッド・シンドローム
週末は、約束していた大型デパートへ買い物に出掛けた。
専務は、料理器具を選ぶ傍らに、ずっといてくれた。
迷っていると、使いやすさを、商品のタグを見ながら真剣に見てくれた。
「菜々子さんは、ずっと料理をしていたんですか?」
「はい。居候でしたし、花嫁修業だと思って、実家でずっとやってはいたんですが、相手が見つからず、腕をふるう機会もありませんでした。」
「そうですか。菜々子さんの料理は、美味しいですよ。」
「え、そうですか?」
「ええ。僕はほとんど外食しかしてこなかったのですが、菜々子さんに作っていただくものは、自分では選ばないようなものが多くて、新鮮です。帰ってきて、その日の夕飯は何か、いつも気になります。」
専務はカートを押しながら、私は商品の棚を選んでいるフリをしながら、ゆっくりと進んでいったが、話に夢中で、どの商品を買うか、頭に入ってこなかった。
そして、専務の、「外食しかしてこなかった」というのは、いつからの話なのか、気になった。
「外食がほとんど、というのは、その、いつからですか?」
気になったことを、素直に聞いてみることにした。
専務は嫌な顔をするでもなく、思い出すように、視線を上に持っていった。
「高校、からですかね。」
「えぇ!?」
驚いて、カシャン、と専務の押すカートの枠を、手で掴んで止めていた。
そのままコロコロと動き続けるカートのように、この話は流れていってしまってはいけない気がしたのだ。
「あの、専務、今までずっと、聞いてはいけない気がして、聞かずにいたのですが、本当はずっと、知りたかったことがあるんです。私たちが顔合わせをしたときも、私、お会いしていないんです。かといって、いらっしゃらないというお話も、聞いていないんです。その、専務の・・・」
お母さまに、と、言おうとした。
それを言うまで、専務はポカンとした顔をしていたが、しかし、結果として、ついにそれを言うことはできなかった。
なぜなら、私の視界の中、向かい合っている専務の向こう側に、北山さんの姿が見えたからだ。