ダブルベッド・シンドローム
「慶一、この人だれ。」
「だれこの人。」
双子は口を揃えて、喧嘩腰でそう言った。
専務のような人を呼び捨てで呼んでいるのだから、この子供たちはただの恐いもの知らずでなければ、どこかのVIPであろうと予想がついた。
こうして北山さんが面倒を見ているのだから、きっと社長がらみの。
子供とはいえ、妻になる予定の私を邪険にして、大人げないが、憎たらしく思った。
しかし、とりあえず、ニコニコしたまま、専務に任せることにした。
「この方は、宮田菜々子さんです。僕の婚約者です。父から聞いていませんか。」
「ううん、パパはさっき会ったけど、何も言ってなかったよ。ねえ、メイ。」
「うん。何も言ってなかった。あ、分かった!マイ、今日のパパとママの大事なお話って、そのことなんだよ。慶一が結婚すること。」
パパと、ママ。
「ママ」という言葉に、専務は、眉をピクリと、一瞬だけ揺らして、そして北山さんの顔を見た。
北山さんは、こうなることを望んでいなかったのか、ため息をひとつついた。
「・・・そうですね、今日は社長が、奥様とお会いしています。何のお話か、私は聞いておりませんが。宮田さんのことを、お話するのかもしれませんね。ただ私は、存じ上げておりませんが。」
あくまで、ここで会ったこと、話したことを故意ではないと弁解するような北山さんの態度が、「パパとママ」、そしてこの二人の子供と、専務の関係が、きちんと輪になっていないことを示していた。
そして、この二人にとってのパパは社長で、専務にとってのお父さんも社長なのに、専務が双子に対して他人行儀なことも、私には理解できなかった。
「マイさん、メイさん。もう行きましょうか。お二人でお買い物をしているのですから、邪魔をしてしまいますよ。社長も、もうすぐ、終わるでしょうから。」
「えー、慶一と遊びたい。」
「いいでしょ?慶一。」
「ああ、ほら、社長から、戻るようにメールが入りました。行きましょう。専務とは、また今度遊んでもらいましょう。」
北山さんは本当に凄腕の秘書なのかもしれない、そう思った。
私は、ここで、この子供たちと行動することになることは、絶対に嫌だったのだ。
それを事前に防いだ北山さんは、そんな私の気持ちを汲んでくれたに違いなかった。