ダブルベッド・シンドローム
その電話があってから、ほんの数十分経ったあと、何やら総務部のフロアがざわめき始めていた。
この島は出入口から離れているので、誰も席を立たないが
、出入口に近い人たちは、コソコソと話しながら、席を立ち、総務室の外へと出ていった。
磯田さんは、すぐに近くの人を呼び寄せて、騒ぎの原因は何かを尋ねた。
「なんか、専務が来てるみたいですよ。専務と、システム統括部の橋田さんが、うちの部長を呼び出したらしいです。」
専務、という言葉を聞いて、うちの島の人たちは皆一度、私のことを見た。
私も、橋田さんから電話をもらっているため、心当たりがあるだけに、首を横に振ることはできなかった。
心臓の鼓動は、悪い意味で大きくなっていった。
そして、その悪い予感は的中し、総務室から外へ出ていった職員たちが、キャッキャと声を出しながら、また室内へと戻ってきたのだ。
最後に専務が、ドアから少しばかり顔を出して、私の姿を確かめた。
「菜々子さん。ちょっといいですか。今、大丈夫ですか?」
「は、い。」
ちらりと磯田さんをみると、ジェスチャーで「行って行って」と、さっさとドアの外へ追いやられた。
「ちょっと、どこか会議室借りましょう。専務。」
「ええ。」
電話で話した橋田部長の正体は、オールバックの、少し太った男性だった。
彼が取り仕切り、エレベーターに数秒乗った別のフロアの会議室に、橋田部長、私と専務、そして総務部長が揃えられたのだ。
年配の総務部長は、私の顔を見ようともしない。
また、専務も、私をエスコートするのはいいものの、目を合わせようとはしなかったのだ。
「宮田さん、十月十五日は、日中は、何をしていました?通常業務でした?」
「えっと、はい、そうですが。」
ソファに腰かける前から、橋田さんの話は始まった。
「席を立つこともありました?」
「いやぁ、まあ、そういうときもあったかと思います。お手洗いとか、お昼などで。」
橋田さんは、ふんふん、とこちらを馬鹿にしたような、していないような、ギリギリの態度で反応した。
それはまるで、尋問をするときの刑事のようだった。