ダブルベッド・シンドローム



ところが、どういうわけだが、予想外のことが起きてしまったのだ。

私たちはこのフロアの会議室に入って、そのバックの中身も先程と同じように出していったわけなのだが、橋田部長は、その二つめで、いきなりUSBメモリーを引き当てたのだ。


もとより、私が自信満々で「見てください」と言ったのは、バックの中にはUSBメモリーに当たるものが入っていない自信があったからだった。

もし、保存された内容が違っていても、USBメモリーが入っていればそれは先に差し出すのが普通であるが、それをしなかったのは、私がそもそもそれを持っていないからである。


つまり、バックの中からUSBメモリーが出てくるのは、私にとって、すでにおかしいことなのだ。


「宮田さん。USB、ひとつ出てきましたね。中を見てもいいですか?」

「あ、の、」


私は思わず、専務の腕をつかんでいた。

専務はその手を握って、「大丈夫ですか」と声を掛けてくれたが、私が焦っていることに気がつくと、それ以上何も言わなかった。


「宮田さん、どうなんですか。」

「あの、それ、私のじゃありません。」

「はあ?」

「別の人のだと思います。」

「あなたの荷物から出てきたんですよ?」


橋田部長にはもう何を言っても無駄である。

このUSBメモリーの中には、おそらく機密情報とやらが入っているはずだ。

それは、直感で分かっていた。

社員証の続きである。
誰かが私を陥れようとしたあの小さな事件は、まだ終わってはいなかったのだ。


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