ダブルベッド・シンドローム


この二人の仲は、夫婦であるということ以外、全く掴むことができずにいたが、この奥様のことはとても好きにはなれないと思った。

私は意外と冷静に、彼女のことを分析し始めていた。

専務が前に言っていたことによれば、今の奥様は社長と別居中であり、専務とは疎遠になっている、という話であったが、ならば彼女が、専務や社長の行動に文句をつける権利はあるのだろうか。

堂島の名を、というが、別居中の奥様はもはや堂島の人間と言えるのだろうか。

そんな人が、会ったこともない私のことを、「偽りだ」などと言える立場なのか。


私は捻れ曲がったこの家族の関係が、たまらなく嫌だった。


つい先程、専務に別れを告げてきたばかりであるが、私はまた、彼を気の毒に思った。

専務から、どういう手段で彼の情の部分を削ぎ落としたのかは知らないが、削ぎ落としておいて、それでいて私と良い仲になれと言い付けるのだから、社長は実に冷酷だ。

専務は社長のことを一番に位置付けているのに、社長はなぜ、それに応えてあげないのか。

こんなことを言う奥様のことなど、関係ないではないか。



「ああ、来たよ、北山くんだ。」


黒塗りの車がロータリーに入ってくると、この裏のエントランスにぴったりと停車した。

顔の半分だけを柱からずらして様子を見ると、その車の運転席には北山さんが乗っていて、後部座席には、見覚えのある双子が大人しく座っていた。

これは先日、私たちがデパートで北山さんと会ったときと同じ組合せであり、つまり前と同じく、社長が奥様と話すために、双子のマイとメイを預かっていたということだろう。

社長が助手席のドアを開けて、奥様を乗せた。


「じゃあ、北山くん、頼んだよ。」

「かしこまりました、社長。」


奥様を乗せた車は、ロータリーを出ていった。


社長はその車が見えなくなるまで、しばらくその場に立っていたが、ピリリ、と電話が鳴り出すと、すぐに、くるりと会社の建物の方へと向きを変えた。

そしてまたそこに立ったまま、電話に出た。


「なんだ、慶一、どうしたんだ。今会社に着いたところだ。・・・え?なんだ、そりゃ。・・・はあ?ちょっと、意味が分からん。詳しく話しなさい。」


慶一さんから、先程の事件について、連絡が入ったのだと予想がつくと、私はすっかり奥様のことは抜け、これからどうなるのかという不安が蘇ってきた。


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