ダブルベッド・シンドローム
部屋はツインベッドルームで、中に着くなり、本当に少し疲れていた私は、片方のベッドに歩み寄って腰を落とした。
その際、もう片方のベッドには専務が座るだろうから、私はベッドの外側ではなく、わざわざ内側に腰をかけて、専務と話ができるようにした。
しかし専務は、向かいのベッドに座るのではなく、私と同じベッドに、私のすぐ隣に腰かけたのだった。
「ごめんなさい、専務。ワガママを聞いてもらうつもりではなかったのですが・・・」
「いえ、いいんです。ちょうど良かったので。」
会場で話しているときの専務は、ずっと何かを気にしているように見えた。
ここへ来たことで、その何かへの気がかりな様子がまるでなくなったように、憑き物が落ちたような表情の変化があったものだから、それが気のせいではなかったと思った。
「専務、大丈夫ですか?疲れてました?」
「いいえ、大丈夫です。菜々子さんこそ、疲れてしまいましたよね。」
「いえ、私も、大丈夫です。緊張しますけど、専務がいてくれますから。」
私たちは少しだけ目を閉じて、リラックスしたり、伸びをしたり、専務もネクタイを緩めたりしていた。
専務が何を気にしていたのか、ということを考えるにあたり、私は当然、奥様がこのパーティーに来ている、ということだろうと予想できた。
しかし、専務は奥様を探すどころか、こうして私とともに、パーティーから遮断されたホテルの一室に収まってしまったのだ。
先ほどの専務の言っていたことが本当なら、それが「ちょうど良かった」というのだが、この状況の中に、専務が気がかりから解放される要因というのはどこにあったのか、私には思い当たらなかった。
しかし、少し考え方を変えてみると、それは少しだけ浮かび上がってきた。
専務は、奥様を探したかったのではなく、奥様から離れたかったのではないかということである。