ダブルベッド・シンドローム
「菜々子さん。実は自分でも驚いているのですが、ここ最近の僕のこういった行動は、おそらく衝動的なものです。」
専務は、私の鎖骨をくわえたまま、淡々と説明をしたのだが、その吐息は声色とは不釣り合いなくらいに熱を持っていた。
衝動的にこういった行動をとることは、必ずしも愛情とは限らず、性欲であるとも考えられるが、愛情であれ、性欲であれ、専務からは今までに感じたことのなかった感情であるから、私はそれに感動していた。
「せん、む、」
できればこうして、専務を、彼が気がかりとしていることから遠ざけて、私への何らかの衝動で満たしてあげたかったのだ。
それが性欲だとしても、私は何ら不満なことはないのである。
専務はこのまま私をベッドに倒そうとし、私もそれに応えてはいるのだが、お互いに、仮病を使って他人から借りたこの部屋で、ことを初めていいものかと、そこを頭の片隅で悩んでいた。
そして専務は、このまま続行はできない、と判断したらしく、私を倒したあと、軽く唇にキスをして、それで終わりにした。
彼は体を起こして、寝そべったままの私の隣に座り直した。
専務はそれっきり、私の前髪を撫でるだけとなったので、私も体を起こし、衣服を整えた。
やがて私たちは部屋を出て、仕方なくパーティー会場へと戻ったのだが、専務は途中で、フロントにキーを返しにいくと言って私を置き去りにした。
私は目敏いため、社長の位置も、奥様の位置も、川本社長、それに川本社長の奥様の位置も把握することとなった。
全て把握して、そこから隠れる位置を選び出し、静かにそこに立っていた。
ホテルのウェイターがシャンパンを持ってきてくれて、それをちびちびと飲むくらいで、私は料理を取りに行くこともせず、専務の帰りを待っていた。
「ねえ、宮田さん?宮田さんじゃない?」
目敏いはずであるが、私は一番逃げ回らねばならない人の存在に気づかずにいたのだ。
浜田先生がこのパーティーに来ているなどと、全く予想しているはずもなく、こうして顔を覗き込まれても、シャンパンのグラスを口につけたまま動けなかった。