ダブルベッド・シンドローム



救急車は数分で向かうとのことで、あとはそれまで、息が止まず、心臓が動ていることを確認し続けるくらいしかできることはなかった。

浜田先生は声をかけ続けているが、社長と慶一さんは、あまりの緊張感に、息をしているのか分からないほどに黙り込んでしまっていた。


「慶一さん。」


彼の方こそ心臓が止まってしまいやしないか、そんな剣幕だったものだから、冗談でなく本当に心配になり、私は彼の手を握った。


「な、菜々子さん、」

「大丈夫です。」

「僕には、できることはありますか、」

「ありますよ。」


慶一さんの手と、奥様の手を繋ぎ、その接合部を私が両手で包み込んだ。


「声を掛けてあげてください。慶一さんが呼び掛けるということは、慶一さんにしかできませんから。」

「菜々子さん・・・」

「大丈夫ですから。本当に、大丈夫です。安心して下さい。」


慶一さんは素直に「母さん」と声をかけ始めたので、私は彼の背中に手を添えて、それを促した。

私が冷静でいられたのは、浜田先生への一定の信頼感があったからだった。

浜田先生は社長に、「奥さんは心労や、ストレス、疲労はありましたか?」と質問していたが、社長はそれによって、奥様の心の中を一から考え直しているようであった。

社長は「あった、かもしれません」と答えたが、先生の求める失神の決定的な要因としては弱い答え方であったようで、また「持病は?」と質問を変えていった。


そして、先生はまた「宮田さん」と私を呼んだ。


「はい。」

「奥さんの首見て。甲状腺。」


見て分かるほどに甲状腺が腫れていた。
不整脈や意識障害を引き起こす病気が思い当たるものが、この部分には多くあった。

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