ダブルベッド・シンドローム
救急車が到着して、奥様が運び込まれたが、その際、薄目を開ける程度の意識だけが戻っていた。
搬送に当たり、付き添いが二人同乗できることとなったが、先程まで診察を請け負っていた浜田先生が乗ることになったため、もう一人の同乗者は社長だけとなった。
慶一さんは乗れないわけなのだが、すぐに車で病院へ向かうとし、私とともにここに残った。
私が「気が動転してるでしょうから、私が運転します」と言ったのだが、慶一さんは冷静に「菜々子さんはシャンパンを飲んでいましたよね」と返してきて、私は自分が冷静でないことを露呈するだけとなった。
搬送先が決まったと社長から慶一さん宛に連絡があり、行き先の病院は、予想どおり、浜田先生の勤め先、そして私の元勤務先である白木山病院だった。
私は最寄り駅まで行けば場所が分かるため、慶一さんにとりあえず駅まで、そこからは案内する旨を伝えた。
「菜々子さん、母は、本当に大丈夫でしょうか。」
車を走らせながら、慶一さんは何度か私にそう聞いてきた。
その度に「大丈夫ですよ」と答えていたのだが、私は甲状腺機能による一時的な意識障害だというところで間違いないと踏んでいたので、気休めではなくて、本当に心配ないという意味を込めて、「命の危険がある場合、普通はあそこで意識は戻らないものなのです。」と、より現実的な説明を付け加えておいた。
医療従事者らしい言葉で説明をすると、彼はやっと安心した顔をした。
─病院に着いて、すぐに処置をした病室を訪ねると、奥様はすっかり意識を取り戻していて、浜田先生と社長と、三人で病状について話し終えたところであった。
奥様は、バツが悪そうであったが、良かった良かったと犬のように喜んでいる社長には、うっすらと笑顔を見せていた。
しかし、慶一さんが病室にやってきた瞬間に、おそらく意識的に、彼女はその笑顔を消したのだ。
「迷惑かけたわね。情けないわ、私も。倒れてしまうなんてね。」
「いえ。病状は、どうだったんですか。」
「ああ、お父さんに聞きなさい。もうお医者さまから、全て話してもらったから。悪いけど、少し休ませて頂戴。」
慶一さんは、車の中で、あんなにこの人のことを心配していたというのに、私は奥様の無神経な態度に、腹が立った。
社長は、川本さんに無事に回復した旨を電話しに席を外し、慶一さんも、言われたとおりに奥様を休ませようと、病室を出た。
私もそれに続いたが、奥様は、
「ああ、貴方は残って。菜々子さん。」
そう言って、私だけを病室に引き留めたのだった。