ダブルベッド・シンドローム
『機密情報に不正にアクセスしたからよ』
それがどういうことであるか、何の事件の話をしているか、私はすぐに理解し、そして理解した後、この人が私を陥れた理由がまったく思い付かないことに、私はすぐに恐怖を感じることとなった。
なぜなら、この人は、私が密かに憧れていたこの人は、同じく密かに、私を恨んでいたということなのだ。
「・・・北山さん、あの、それって、」
「貴方のことが妬ましかったのよ。随分と簡単に、専務の婚約者になったでしょう。私はこの職務につけるまで、専務のそばにいられるようになるまで、あなたの何倍も苦労をした自信があるわ。何て言うのかしら、だから恨みというより、単純に、貴方にいなくなってほしかっただけなのよ。」
「・・・北山さん・・・」
もちろん私は、ショックを受けた。
それと同時に、北山さんでも、そんなことを考えるものなのだと、こんなときに、彼女を近くに感じた。
「ああ、でも、勘違いしないでね。確かに、貴方の社員証を使ってアクセスしたけれど、決して盗んだわけではないの。シュレッダーにもかけていないわ。私は盗んだ人が落としたものを拾って、さらにそれを使った後は、その人に戻しただけよ。」
「それって、誰ですか?」
「それを言う必要はないと思うから、言わないわ。あなたの頭の中がややこしくなってしまうでしょ。貴方が机をくっつけて仕事をしている人のうちの誰かだけれど、でも、それ以上は言わないでおくわ。」
私はさほど、その犯人探しに興味はなかった。
私は、なぜ、このことが私の耳に入らずに、北山さんが異動するという形に収まっているのかを尋ねると、彼女は、「私が貴方に対してこんなことをしたということを、社長は知らせたくなかったんでしょうね」と答えた。
「私はずっと疑問に思っていたのよ。社長はどうして、そこまで貴方を気にかけるのか。一体貴方の何が、社長の信頼をあんなにも得ているのか。」
社長と出会ってから、同じくずっとその疑問を持ち続けていた私は、北山さんの考えを聞きたかった。
私を陥れたのだとしても、彼女が優秀で、私よりも遥かに頭の回る人だという本質は、変わらないのだから、そんな彼女の思うところを、私は参考にするつもりでいた。
でも彼女は、すでに答えを知っていたのだ。
「宮田さん。私、思い出したのよ。私は貴方と話すのは、ここが初めてじゃないの。」