ダブルベッド・シンドローム
それから、桜さんの容態が悪化し始めて、彼女はだんだんと、歩くこと、食べること、話すこと、笑うこと、それらすべてに体力を奪われるようになり、やがてそれをしなくなった。
私は悲しかったが、いずれはこうなることが分かっていたので、その最期のときを、誰も見ていなくとも、私がしっかりと見ていようと心に決めた。
そして、ふと、思い出したのである。
テーブルに置かれた手帳に、彼女の大切な人の電話番号が書かれていること。
私はその考えを持ってから二日間、誰にも相談せずに、もちろん桜さん本人にも聞かずに、自分の頭の中だけで悩んでいた。
このまま、やがて、桜さんは意識を失い、そしてだんだんと死に近づいていく。
それでいいのだろうか。
この電話番号の主が、それを知らぬまま、それが終わってしまって、いいのだろうか。
悩めば悩むほどに、私の中の、独り善がりな考えは、密度を増していったのだ。
「・・・桜さん?」
ある日、桜さんは、息をしているのに、朝目覚めなかった。
私は思っていたよりも、桜さんの死に対して心の準備ができていなかったようで、ある日こうして、眠るように息を引き取ってしまうのではないかと思うと、胸がザワザワとして、何度も彼女を呼び掛けて起こした。
彼女は少し起きて、また目を閉じた。
私はなぜか涙が出ていた。
そして、私はついに、テーブルに置かれた手帳に、手を伸ばしていたのである。