ダブルベッド・シンドローム
─北山さんが話したことは、そんな私の記憶と、相違する点はなかった。
電話に出た女性は北山さんであったこと、そして、その女性が北山さんであったということの示す意味、社長の顔、藤沢桜さんの正体、慶一さん、色々な映像が頭の中を横切っていき、それらをさらに正しく組み立てようとするのだが、組み立つ前に、「まさか」「そんな」と、そんな自分の声が何度も邪魔をしてきたのだ。
「宮田さん、それで、その続きだけど、」
北山さんの声は、あの日の電話の声に重なって、微妙にずれている声の音程に、それがまるで不協和音のようで耳に障った。
「私は電話を切ったけど、あの日の貴方の用件は、確かに社長に伝えたわ。」
知っている。
電話の相手が、あの女性が、目当ての人にきちんと話を伝えてくれたということは、私はすでに知っていた。
なぜなら、私は見ていたからだ。
あの電話の後、すぐに、見知らぬ男性が、慌てて桜さんの病室を訪ねてきたこと、その様子を見ていたからだ。
それは、私が病室から逃げ出した後だった。
逃げ出して、走っていた廊下から、また病室を見たときに、その人を見たのだ。
私は、記憶の中のその男性が、社長だと分かったことで、今、この瞬間、あのときの記憶が鮮明に甦ってきた。
忘れかけて、いや、忘れたくて、ずっとぼやけていたその男性の顔に、すっかりと社長の顔が当てはまり、そのせいで、その病室の、花瓶にさしてあったマリーゴールドだとか、桜さんが使っていた音符の柄のマグカップだとか、そういった景色が、鮮明に、鮮明に、悲しいくらいに鮮明に。
「私は、その後のことは知らないの。社長はすぐに、藤沢桜さんに会いに行ったはずよ。ねえ宮田さん、そのあとどうなったの?」