眼鏡とハンバーグと指環と制服と
夏生は私を抱き寄せると、ゆっくりと髪を撫でてくれた。
それだけでわけもなく泣きたくなる。

「大丈夫。
大丈夫だよ……」

優しい夏生の声に、ちょっとだけ泣いた。


タクシーの中でも、ずっと手を握っていてくれた。

流石に学校に乗り付けるわけにはいかないので、裏門から少し離れたところで
降りる。

学校につくと、靴を履き替えた夏生——もうこの状態だと、使い分ける気力が
ない——はわざわざ、私の下駄箱のとこまで迎えにきてくれた。

教室まで一緒に来てくれて、香織ちゃんも亜紀ちゃんも来てないことを確認す
ると、日本史科室に連れて行ってくれた。

「朝の会議が始まるまで時間があるから。
お茶、飲む?」

「……うん」

湯飲みを両手で包み込んで、ゆっくりとお茶を啜る。

もう学校だというのに、夏生はやっぱり、私の手を握ってくれた。

「つらかったら、すぐに保健室でも、僕のところにでもおいで。
いい?」
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