新・鉢植右から3番目


「そうよ、夜桜。綺麗だよねえ、この部屋で入院なんて、ラッキーだったわ」

 って。するとダレ男はダラ~ッと続けたのだ。

「・・・桜。この子の、名前」

 え。

 私は口を開けてヤツを見た。

 ・・・あ、この子の名前・・・。名前?そうか、彼は窓の外に桜があるよって言ってんじゃなくて────────

「・・・漆原、桜・・・?」

 ようやく、ヤツの口元が緩んだ。微笑のようなもの、を見せて、小さく頷く。

 私もゆっくりと笑顔になる。

 窓の外には広がる暗闇。そこに浮き上がる、ぼんやりと光を発する白とピンクの可憐な花びら。

 ・・・桜、いいかも。季節的にもいいし、誰でも読める名前だわ。

 そう思った。だから、笑顔で頷いた。いいね、って。じゃあそうしましょうか、って。私達の娘の名前は、桜で決定ねって。

 ダレ男はまたベビーベッドを覗き込む。それから気が済んだのか、私を振り返ってじゃあ、と言った。

「お帰りですか~?」

「うん」

「その前に言うことあるでしょ~」

「うん?」


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