新・鉢植右から3番目
産むまで性別が判らなかったのだ。この病院の方針でハッキリとわからない限りは性別を教えませんということだった。この子はお腹の中にいる間ずっときゅう~っと丸まっていたので、最後まで性別がはっきりせず、考えすぎて疲れたのもあるので、私達は名前をまだ決めていなかった。
熱でちょっとぼうっとしながら、私はベビーベッドを覗き込んでいる夫へ言う。
「まだ何も。何か、いい名前があった?」
ヤツは相変わらずじい~っと赤ん坊を見詰めながらぼそぼそと言う。
「都の希望は?」
「うーん・・・思い浮かばないのよ。顔見て考えようって思ったけど、実際生まれて顔みたら、目は君だとか鼻はうちの父ねとか、そんなことばかりが思い浮かんじゃってさ~。母親たちは名前名前って騒いでたけれど、もう疲れたから後にしてって言ったの」
元気はなかったけど、ケラケラと私は笑う。赤ん坊とは、本当に不思議な存在だ。自分で生んでみて本気でそう思った。
遺伝の不思議、その結晶が、赤ちゃんなのだ、って。
我が子を凝視する夫に声をかける。
「君は、どお?」
すると、やっと子供から目を離したヤツは私に体ごと向き直った。
そして、ポケットに突っ込んでいた手をゆらりと出して、すいっと窓の外へ指を向ける。
「はい?」
「桜」
窓の外には、満開の桜の木。枝が伸びて、私が入っているこの部屋の窓わくに桜の花びらを散らしている。病院横に立つ街頭の明りで、この部屋からはラッキーなことに素晴らしい夜桜が眺められるのだった。
私はちょっと自慢げに、ふふんと笑う。