プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
「……驚いたな。まさか日菜子さんが本当に調達できるなんて思ってもいませんでした」
たいていのことに驚かない冷静な祐希が、目を白黒させていた。
驚いていることは、“牧瀬”と言うべきところを“日菜子”と言ってしまったところからもわかる。
「それで肝心の豆は?」
「あ、それは……」
ほかの人に聞こえないように、声を潜めて「雪さんにローストをお願いしてあるんです」と告げる。
口元に手を当てて内緒話をするように耳に近づくと、反射的に祐希が身体を逸らせた。
そこまで露骨に避けなくてもいいのに。
これにはかなり傷ついた。
思わずシュンと肩を落とすと、その拍子に袋が腕へと滑り出す。
祐希は咄嗟に手を出して、その荷物を受け取ってくれた。
「明日、コーヒーは私が担当します」
「そうしてください。コーヒーの責任者は牧瀬さんですから」
突き放すような言い方にも聞こえたけれど、ちょっとした毒舌に救われる気がした。
馬鹿丁寧に避けられるよりは、いつもの祐希の調子で接してもらえたほうがいい。
ただ、家を出たことに関してはほかの人がいる手前、聞ける雰囲気ではなかった。