プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
「日菜子さんも僕のことは呼び捨てではなく、“真壁さん”と呼ぶようにしてください」
「……はい」
なんだかむず痒い。
さん付けから呼び捨てになるのも、逆のパターンも、距離感が急に変わって変な感じだ。
「ついでにもうひとついい?」
「まだあるんですか?」
ずっと前だけを見て走っていた祐希が、眉間に皺を寄せて私に顔を向ける。
「走る気ゼロのようですね」
「やだな、ちゃんとこうして走ってるじゃない」
息は絶え絶え。
今すぐにでも座り込みたいけれど。
「祐希はどうして私に敬語を使うの? 私のほうが四つも年下なのに」
ずっと疑問に思ってきたことだった。
私なんて、会ったその日から“タメ語”だ。
しかも呼び捨て。
上下関係をまるで無視した私へのあてつけのつもりもあるのか。
出会ってすぐなら敬語でもわかるが、未だにそれが続いているのだから。
「お世話になっている人の大切なお嬢さんですからね」
「それはそうかもしれないけど。……あ、クセみたいなもの? もうそれが染み付いちゃってるとか」
「……そんなところですね。しつこい泥汚れとでもいいますか」
「それじゃまるで、私が泥みたいじゃない」
思わず拳を握ると祐希はククッと笑って肩を揺らした。