プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔

◇◇◇

……もうダメ。
これ以上、走れない。


「ねぇ祐希……待って……」


私の十数メートル先を行く祐希に手を伸ばす。
それが届くことは当然ながらなく、私の右手は空を切るばかり。
軽やかな足取りの祐希が恨めしい。

とうとう立ち止まった私はその場にうずくまった。
肩を大きく上下させ、あたりの酸素を取り込みまくる。
そうしても私の肺は、まだ足りないとポンプを必死に動かしていた。


「だから言ったじゃありませんか。しゃべっていたらバテると。それを性懲りもなくペラペラと……」


顔を上げると、あきれ顔の祐希が両手を腰に当てて立っていた。
私とは対照的に呼吸ひとつ乱れていない。
それどころか身体からは清々しささえ感じる。
新緑の森にも引けをとらないくらいの爽やかさだ。


「日菜子さんは運動不足が過ぎる上、おしゃべりも過ぎます」

「……はい」


返す言葉もない。

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