プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
「牧瀬日菜子です。どうぞよろしくお願いします」
おしとやかに頭を下げた。
「それじゃあとのことは頼んだよ、真壁くん」
「はい」
逸見本部長は祐希の肩をポンと軽くひと叩きし、自分のデスクへと戻って行った。
いつの間に姿を消したのか、人事の倉沢部長はどこにも見えない。
「牧瀬さん、こちらです」
一瞬だけ目を合わせたあと、祐希は私を席へと案内してくれた。
そこは、前任者がいかにもついさっきまで使っていましたという状態でそこにあった。
本来なら私へ教える業務が残っていたんだろう。
卓上カレンダーには今日の日付に赤丸がしてあり“引き継ぎ開始”と書かれている。
まだ私の席ではない雰囲気を醸し出していて座るのを躊躇っていると、隣から消え入りそうなほど小さな声をかけられた。
「江橋美月(えはしみつき)です。よろしくお願いします」
見れば、肩までの黒髪に黒縁の大きな眼鏡をかけた女性が、遠慮がちに微笑んでいた。
眼鏡のふちにかかるところで真っ直ぐに切りそろえられた前髪が印象的だ。