プライベートレッスン 〜 同居人の甘い素顔
とはいえ、祐希が私の手当てをしたがったという話が、なぜだか胸に引っかかる。
奥歯になにかが詰まって、舌で触ってみてもなかなか取れないみたいな。
そんなもどかしい気持ちだった。
「では、手当ても終わったことですし、コーヒーでもいかがですか?」
「うん、飲みたい」
実は雪さんの淹れてくれるコーヒーは、かなりのものなのだ。
といっても、そのことに気づいたのはここ数年のことだ。
小学生のころは、さすがにお父さんから「まだ日菜子にコーヒーは早い」なんて言われて“大人の時間”になかなか混ぜてもらえなかったが、中学生になったあたりからお父さんや清美おばさんに淹れた残りを雪さんがこっそり私に分けてくれるようになった。
そんな幼いころから親しんできたコーヒーは私の中で定番化し、それが当たり前の味になっていった。
ところが自由に喫茶店に出入りするようになって愕然としたものだ。
これはコーヒーじゃないと。
雪さんの淹れてくれるコーヒーの格別さに。
私の知っている限りで、雪さん以上にコーヒーを美味しく淹れられる人はいない。
「どうぞ」
コーヒーカップを雪さんが手渡してくれた。
鼻をカップの上にくぐらせると、コーヒー特有の香ばしい匂いが鼻孔いっぱいに広がった。
癒される香りだ。