SaltyTriangle*
雨に打たれながら、必死に自宅に向かって走った。
正確には、自宅の隣の楓の家に向かって。
普段歩いて20分の道のりを、実質10分かからず走り抜けた。
秋の雨は、思っていた以上に冷たかった。
家の前までたどり着く頃には、膝に手をついて肩で息をしていた。
外から見る限り、楓の家に明かりは付いていない。
玄関に駆け寄ってガチャガチャとドアノブを回すが、まだ鍵がかかったまま。
……まだ帰ってきてない。
できれば、帰ってきてて欲しかった。
心配しすぎって、子供扱いすんなって、笑って言う楓を思い浮かべてた。
帰ってきてないのならやる事は1つだ。
すぐ隣の自分の家に入って、傘立てにさしてある傘を一本手に取る。
偶然廊下に出ていた弟の葵(あおい)が、私を見て目をまん丸く見開いた。
「おか…えり?びしょ濡れじゃん。風邪引くよ。」
楓の影響で小学6年生のくせにやけに大人びてしまった弟に、少し寂しさを感じる今日この頃…
いや、そんなこと思ってる場合じゃなかった。
「楓迎えに行ってくる!」
「え、かえ兄?一緒に帰ってきてないの?」
……バタン
葵の問いかけに答える前に、玄関の扉を閉めていた。
恐らく扉の向こうで、今まさに愚痴を漏らしてることだろう。
さらに強く勢いを増した雨の中に、再び飛び込む。
わざわざ家から取ってきた傘は差さず、また雨に濡れながら走った。
いつも楓と一緒にお墓参りに行くときは、バス一本で15分ほど。
それを休むことなく走り続けた結果、私の体力はほぼほぼ限界を迎えていた。
学校から家まで、家から墓地まで、雨に打たれながら全力疾走すれば、さすがの私も疲れるのか……
今すぐに倒れこみたいほど疲れたのは久しぶりだ。
フラつく足で墓地に踏み入り、墓石と墓石の間の道をすり抜けて奥に向かう。
薄暗い空、打ち付ける雨、自分を囲む冷たい石。
なんだか少し、精神が削られてる気がした。