SaltyTriangle*
私が全力で駆け抜けた道を、一本の傘に2人で入りゆっくり歩いた。
楓と私の身長差は20㎝ある。
楓が177、私が157。
腕を目一杯伸ばして傘を持つ私に、楓がフッと笑った。
ヒョイっと傘を私から奪って、少しだけ私の方に傾ける。
「……傘ぐらい持てるし。」
口を尖らせて、つい言ってしまう。
いや、“ありがとう”でいいと思うんだよ、ここは。
わかってはいるんだけどね。
「なんで傘持ってたのにびしょ濡れなの?」
そう言う楓は、前を向いて可笑しそうに笑っている。
2人でいるときは、本当によく笑う。
学校ではやけにクールに決めてるくせに。
傘を差していながら、2人して全身びしょ濡れな私たち。
「傘差しながら走ると、空気抵抗大きいから。学校から家までですでに濡れてたし。」
「どんだけ必死だよ。」
「あんたを心配してたんでしょうが!」
さっきまで放心状態だったくせに、調子戻るの早すぎか。
少し語尾を強めてツッコむと、楓の透き通った瞳が私を真っ直ぐ見つめた。
え……、なに。
「ありがとう。」
私の口からサラッと出てくれない言葉を、なんて真剣な眼差しで言うんだろう。
「いや、別に……そんな改まって言われると……照れる。」
「梓が来なかったら俺、あそこでずっとああしてたんだろうな。」
来てよかった。
心の底からそう思った。
来ないっていう選択肢、もともと無かったんだけど。
時刻は17時半、厚い雨雲のせいですっかり暗くなった空。
あまりにも暗すぎて、もう19時を過ぎたんじゃないかと錯覚するほど。
私は制服のブレザーのポッケからスマホを取り出して、慣れた手つきで葵の番号を表示させた。
そのまま葵にかけると、秒で繋がる。
『もしもし、梓?お前質問にくらい答えてけよ。かえ兄大丈夫だった?』
弟よ、毎度思うけどなんで私には姉ってつけてくれないのか……