SaltyTriangle*
家に入ると、まだ10月だというのに暖房がかけられていた。
玄関には前もってタオルが敷いてあり、私たちが帰ってくると同時に葵がハンドタオルを2枚持ってリビングから出てくる。
「おかえり、これで拭いてから上がって。かえ兄そのままお風呂ね。父さんのだけど着替え置いといたから、ワイシャツは洗濯機、それ以外は干すから置いといて。梓はとりあえず部屋行って着替えて、リビング暖房ついてるから。」
まぁ、なんて手際の良さ。
楓最優先で姉は蔑ろなところ、さすがすぎる。
「いや、俺は後でいいよ。梓先に……」
「あー、ダメダメ。かえ兄差し置いて梓が入ろうもんなら、母さんに殺されるから。梓が。」
葵の言うとおりである。
茅野家は家族揃って楓大好きな節がある。
私ももちろん(恋愛的な意味で)好きなわけだから、これといって文句はない。
ただ、葵にはもう少し姉として見られたい。
文句といえばそれくらいだ。
ぐしょっとして重量感のあるローファーを脱いで、これまた重量感たっぷりの靴下を脱いでからタオルの上で何度か足踏みした。
脱いだ靴下を洗面所にある洗濯機にポイっと投げ入れつつ、そのまま階段に向かう。
「じゃあ、私着替えてくるから。楓さっさと入っちゃって〜。」
玄関に楓をポツンと取り残し、私はさっさと自分の部屋に入った。
実を言うと、家に入ってから恥ずかしさが込み上げてきて、楓の顔をまともに見れていない。
事情が事情とはいえ、楓のお母さんの前で(正確には墓前で)楓をだ、だだ、だ、抱きしめるなんて……
いや、今朝も飛びついたりしてたけどさ。
ノリとテンションが違うわけで。
「あぁ〜、もう……何してんの、私……。」
部屋の扉に背中を預けて、そのままずり落ちる。
ビショビョに濡れてボサボサになった髪を、右手でさらにぐしゃっと握りしめた。
「子供じゃないんだから……。」
もう、無邪気に触れ合ってた頃とは違うんだ……。
高校生の男女には、高校生の男女のあるべき距離感がある。
私と楓は近すぎる。そして、稀に度を過ぎて近くなる。
それが、世間の暗黙の了解を侵しているようで……、近づきすぎる度、言いようのない罪悪感が私を襲うんだ。