嘘つき天使へ、愛をこめて


父親が消えたことに何の疑問も持たなかったのは、もうそれ以前から、心という心をなくしていたからなのだと今は思う。


だってあたしは、その全く色のない世界で生きていることに慣れきって、なにも変だと思わなかったのだから。


けれど、その抜け殻だったあたしをあの人は救ってくれた。


彼は、父が消息を絶つ以前から、あたしのことを気にかけてくれていた唯一の存在だった。


あたし以外誰もいない家に来るたびに、彼はいつも食べ物を持っていて、あたしの頭を撫でながら「ちゃんと食べないと大きくならないぞ」と言い残して帰っていく。


その大きな手は男らしく、ごつごつしているのに、いつも冷たいのが印象的だった。


けれど、あたしは最初彼が誰なのか知らなかったんだ。


……そう、名前すらね。


それを知ったのは、父親が消息を絶ってから1か月を過ぎた頃に彼が唐突にやってきた時だった。


家の中の雑然とした様子と、憔悴して動けずにいるあたしを見て、彼は開口一番、こう言った。
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