嘘つき天使へ、愛をこめて
「いえ、なんでも」
「……そう?」
傍から見れば普通の会話をしていても、あたしと先生の間には凍てつく氷の壁がそびえ立っているようだった。
決してその先には踏み入れさせない気迫。
その壁に触れるだけで、指先から全身を凍らせていくような大きな波の中でふと思う。
なんかこの感じは、どことなく大翔に似てる。
似ているはずはないのだけど、大翔は謎が多いからそう思うのかもしれない。
けれど、一つわかった。
この人は完全に胡蝶蘭の関係者だ。
そして、それなりの立場にいる人間。
そうでなければ、この人を潰すような気迫は出せない。
要注意人物、第一号だ。
頭の隅っこに留めておきながら、あたしはチラリと先生の後ろへと視線をうつした。
見る限りではこの学校の教師全員が〝胡蝶蘭〟に関わっているというわけではなさそうだ。
怯えた顔をしている教師ばかりで、なんだかかわいそうになってくる。
こんな所に派遣される教師もとんだ災難だよね。
「……俺からも訊いていいかな?」
「どうぞ」
顔は笑っていても目は全く笑っていない先生へと視線を戻し、あたしは穏やかに頷いた。