(A) of Hearts
「千尋ちゃん!!!」
舞台袖にはければ、すぐに前田さんのお姉さんから声を掛けられて抱きしめられる。だけどまだ体の緊張が解けてくれず。細い息をゆっくり吐き出した。
「——すみません」
「どうして謝るの??」
「泣いちゃいましたもん」
「ううん。すっごくよかった!! なんかわたしまで涙が出ちゃったもん。可愛かったああ!!」
「お疲れさま」
そして前田さん。
さっきまでの王子的スマイルを引っ込め髪をかきあげる。
なんだか許せない。
許せないけど、どうすればいいの?
だって前田さんは、アヤさんと芦沢さんの友だちとして盛大に祝福しただけなんだもん。
「お疲れさまでした」
「なんかさあ? またまた惚れなおしたよ」
「ふざけないでください」
「本心だよ。まあ、だけどこれ以上はやめとこうかな。また気分悪くされても困るしさ。押すときは押すけど、引くときは引くよ俺」
「——わたし、前田さまがわかりません」
「やっぱり全部話さないと理解できない? アヤとヒロには、幸せになってもらいたい。心からそう思ってる。それと館野さんが好き」
蝶ネクタイを外しながら大きく伸びをする前田さん。
「肝が据わっているというか度胸があるというか、なんというかさ? ただ場が読めてないだけかもしれないけど、あそこまでは正直言って期待していなかったよ。最後のほうなんかは、この俺のほうが本気で見惚れた」
「——やめてください」
「本気で俺の女になってよ」
「嫌です」
「ヒロが好き? こんなのつけられてさ」
そしてわたしの鎖骨あたりを指で軽くトンッと叩く。なんだか心臓をえぐり取られてしまったかのような錯覚。
「あのヒロが、こんなことするなんて」
「ち、違います!憶測だけで話さないでくださいっ」
「もしかしてさ。なんか約束でもしてた? これが消える前に、なんとかするって」
「——っ!」
パチンと乾いた音が響く。
前田さんの頬を引っ叩いてしまった。
「なんで泣くかな。泣くなんて卑怯だよね。叩かれたのは俺なんだけど?」
「———どうして、こんなこと」
「館野さんのことも好きだから? かなあ? どう思う?」
意味がわからない。
だってこんなの。