(A) of Hearts
「どうせヒロに俺と付き合ってみるとかいったんだろ?」
「な、」
「——くん、ストップ!!」
すると、お姉さんの声が。
そして足音が聞こえたと思えば、なんと目の前に芦沢さんが現れた。
「ヒロ。お前アヤは?」
わたしの顔を見たまま振り返らずに口を開いた前田さん。
表情はとくに変わらない。
焦っている様子もない。
それはまるでここに来ることを知っていたかのようにも見える。わたしが水を掛けたときと同じ。
「アヤはどうしたと聞いてるんだけども」
「なにをやっているんだ、お前」
「なんだよー。俺たちの邪魔すんなっ」
「おい前田」
「無視〜」
ここまで前田さんの頭にはあったことなのかもしれないと思えた。だってまったく動揺していないし笑みさえ浮かべている。
きっとステージにわたしが立つことになったことのように、すこし手を加えただけなんだろう。
だけどもし芦沢さんがアヤさんを置いて、ここに来たのなら、それはやっぱり駄目だと思う。それは前田さんが、どうこうではなく。
いまこの場は、わたしが動けば解決できる。——はず!!
「——ねえアツ」
「なんだいハニー」
突然名前を呼んでみたのにも関わらず、それすらもまったく動じないことに、わたしのほうが怯んでしまいそう。
「どうして専務がここに? アツが呼んだの?」
「なんで俺が呼ぶんだよ。ハニーが呼んだんじゃ?」
やっぱり表情だけでは前田さんの考えていることなどわかるはずない。どこまでが本気で、どこまでがシナリオなのか。だけどもう、そんなことはいいかな。
「——専務? アヤさんのところへ、お戻りください。それともわたしプライベートまで干渉されちゃうのでしょうか」
するとコトンと小さい物音。
「ごめんなさい。じつはわたしも一緒なの」
アヤさんだ。
芦沢さんが来たときには動じなかった前田さんがピクリと目を動かせる。