別れたいのに愛おしい~冷徹御曹司の揺るぎない独占愛~
「理沙に長い間本当の事を言わなかった理由を話すけど、それには出会った頃の事から話す事になる。最後迄聞いて欲しい」

「……うん」

「理沙と初めて言葉を交わしたのは、図書館だった。覚えてる?」

「覚えてるよ。奏人が私が忘れた買い物袋を拾ってくれたんだよね」

忘れる訳がない。私はあの時、奏人の笑顔に強烈に惹かれたんだから。

「そう。でも俺が理沙の事を知ったのはあの時が初めてって訳じゃなかったんだ」

奏人の言葉に私は大きく目を見開いた。

「どうして? 私、奏人を見たのはあの時が初めてだったよ?」

奏人と出会うよりずっと前から頻繁に図書館に通っていたけど、奏人の事は見た事が無かった。

ただ図書館で居合わせただけの人を、覚えていないだけなもしれない。
もしかしたら、何度かすれ違った事が有ったのかもしれない。

でも、お互い印象に残る様な出来事は、無かったはずだ。

「俺が理沙を初めて見たのは図書館じゃなくて会社でだったんだ。だからあの日に理沙を見かけた時も直ぐ気付いた、うちの会社の社員だって。それで気になってチラチラ見ていたら理沙が買い物袋を忘れたまま出て行こうとしたのに気が付いたんだ」

「会社で? 奏人はそんな前から会社に出入りしてたの?」

「出入りしてたって程じゃないけど、何度かは来ていた。それで国内営業部の様子を見に行った時に、理沙を見かけたんだ」

「……良く覚えてたね」

様子を見るただけの短い時間で、他人の顔を覚えるなんて私には不可能だ。
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