縁側で恋を始めましょう



「ただいま」

もやもやとした気持ちを抱えたまま玄関を開けると、二階から暁が降りてきた。

「おかえり。夕飯の準備するね」

そう言ってエプロンを手に取り、キッチンへ立つ。
やっぱり、いつも通り。
昨日のことや今朝のことなんて気にするそぶりはない。
夕飯が手早く用意され、私はやや気まずく思いながらも、いつものように食事を終える。
そして定位置の縁側に座り、大きく伸びをした。
あぁ、やっぱりここが一番落ち着く。
ホッと息をつき寛いでいると背中がふわっと包まれるように温かくなった。

「……こら」

後ろから両肩に暁の腕が乗せられ、背中に頭が寄せられる。たしなめるように声をかけるが無視された。

「紗希、心臓がうるさいよ」
「なっ……、うるさいわね」

含み笑いでそう指摘され、ただでさえ早かった心臓がさらに大きくはねた。
暁に触れられると心臓がうるさく鳴ってしまう。意識しないようにすればするほど思いとは裏腹に身体の機能が重い通りにいかない。


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