雪の日に祝福を…。
  


 あまりのしつこさについ言ってしまった。


「解った。次搬送されて来たら迷わず元の病院に転送する。」


 医師の強い口調に頷き項垂れて部屋に帰った。

 知り合いの居ない小さな町に来て2ヶ月が過ぎようとしていた。商社に勤めていた頃にコツコツ貯めた貯金をこんな生活の為に使うなんて想像もしなかった。
 ましてや退職金も病気にむしり取られるなんて・・・。


「はぁ・・・。」


 最近ため息しか出ないしかし悪いことばかりではない。
 彼が父親の元に帰ってから1ヶ月が過ぎたある日ニュースに新作発表の知らせが流れた。・・・
 どうやら画家を続けながら父親の会社を手伝うようだ。然るべき時に会社は、重役会で決まった人物を就任させると言う一族経営からの脱却を目指すと言う。
 彼の夢は、続いていた。
 それが唯一の救い。


「燵夜くん・・・・・・頑張ったね。」


 殺風景な部屋で彼の受賞の新聞だけが特別仕様で壁に掛かっている。


「逢いたいわ・・・・・・。」


 呟いて瞳を閉じる。


 》 》


 誰にも探してもらえなくても彼に逢いたかった。

 夢で輝かせてくれたあの眩しい存在に・・・。


  
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