勘違いも捨てたもんじゃない

はぁ…お昼。解ってはいたけどというのも変だけど着信は無かった。何か企んでいてわざとなのか、これが普通と思った方がいいのか。…夕方迄には何かしらあるのか。……有り難う、とかだけでも…来ないかな。それとも、何も無いままかな…。武蔵さんは行動が突然だから、何も言わず来るのかも知れない。…来ないのかも知れない。だから……、期待してはいけないって…。でも、そうだけど、やっぱり期待はしたい。

定時きっちりで会社を後にした。もしかして、…は無かった。歩き出した先に車が停まっていないか、やっぱりちょっと期待した。だから…。まだ早い時間だし…、そもそも、元々日常から何も期待しない事が約束だったでしょ…。

家の近所、予約しておいたケーキを受け取り、ローソクなどはどうされますかと聞かれた。
数字のキャンドルがあったからそれをお願いした。では、お誕生日でしたらプレートを書きましょうかと言われた。予約時、敢えて何も言ってなかった。いえ、それは結構ですとお断りした。
右手にケーキの箱、左手にはオードブルのパック。ポツポツと宛がないかのように歩いた。ノロノロ歩いていたら追い越して前で停まるかも知れないって。停車して車のドアが突然開き、中から出た腕にさらわれる、なんて事も無さそうだ。……思えば…全てが出会い頭で、ハプニング…。突発的な事だからドキドキと、成立していた…?


マンションに帰り着いた。…ふぅ。…う、ん。
ハザードが点滅している車も、人影も、どこにも見当たらなかった。
部屋に入り、荷物を下ろした。迷いなく冷蔵庫に全部しまった。常温で置いておくには時間が解らな過ぎるから。

バッグから携帯を取り出して見たが、欲しい人からの着信は無かった。
一つ一つ、どんなことも期待してはいけない。勝手に色んなシチュエーションを想像するのはそれこそ少しでも期待したい私の勝手な想像。溜め息を何度もついたら帳尻が合わなくなる…。
リボンの掛かった長方形の箱を出した。好きな物は解らない。使ってくれるかどうかも解らない。私なりに考えた物。

どうなるか解らないけど、普通通り。お風呂に入って過ごしていよう。携帯は手の届くところに置いておこう。…普通に晩御飯って食べられない。そんな気分じゃ無い。珈琲を入れた。香りに少し癒された。それがどこかで解っていたから癒されたくて入れた。口は付けても全てを飲み切る事は無かった。目に見えて減るほど珈琲もすすまなかった。

壁を眺める。普段こんなにはっきり鳴っていたかと思うほどコチコチと時計の音が響いた。あとは何も音が無い。静かだ。何も映さない黒い画面。見もしないテレビさえ、点けるのを忘れていた。…誰?……無表情な白い顔の私が映っていた。

もう、明日になってしまう。明日になれば土曜日。休みになる。強くこだわる訳では無いけどやっぱり今日の内に会いたい。今更だけど、会社の人に祝って貰ってるって事もあるかも知れないんだ。そしたら、そんなに早くは終わらないかも知れない。


…土曜になった。はぁ…。初めて深い溜め息が出た。飲みかけの珈琲…。カップの内側に線が付いていた。蒸発したのだろう、僅かだけど珈琲が減ったんだ…。
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