勘違いも捨てたもんじゃない
「取り敢えず、走ります」
…鎮まれ、俺の心臓。…ふぅ。
「…何だか急かせてすみません。とにかく、一分でも一秒でも貴重なんで。すみません、連絡に備えてイヤホンします」
「はい……フフ」
「ん?」
「あ、いえ、なんでも…」
車を出した。動悸が激しい。時間の無さから来るものなのか、…それとも。…落ち着け、俺。
「連絡をした時は…後先考えず、時間ができたと思って。よくよく考えたらあまり余裕が無くて。……でも、会いたかった」
「武蔵さん…」
「あ゙、俺…。いきなり、なんてことを言ってるんだ…すみません、会いたかったなんて」
熱、あり過ぎか…引かれたか。どんだけ女に貪欲なんだって思われたか。
「フフ、あ、ごめんなさい。……嬉しい」
「え…」
「あ、私も…嬉しいんです…私も…会いたいと思っていたから。朝、少ししか話せませんでしたが、面白い人だなと思って。名刺、頂きました。これってどういうことなんだろうって。それで私が連絡しなかったら、これっきりになるかも知れないって。…だから私…、引かれてしまうかと思ったけど、直ぐメールをしました。…だから、さっき武蔵さんからメールが来て凄く嬉しかったんです…だから…」
車を路肩に寄せた。
エンジンを止めた。
「…あ、どうしたんですか?ドライブ…」
「…高鞍さん、俺…大袈裟でも何でも無く、人生で初めてなんです。あんな衝撃が走ったのは」
「え?」
「ショッキングな出会いだから印象付いたんだと言われたら、それはそれで全く無いとは言えないのかも知れない。でも、貴女が電車を降りたらもう会えないかも知れない。そう思ったら、それっきりにしたくなかったんです。俺は…自分に、こんな情熱があるとは思いませんでした。よく知らない男の言葉なんて信じられない、嘘臭いでしょうが」
ずっと…、無かったもの…。シートベルトを外した。
あ、…。えっ。
「ぁ、武蔵、さ、ん?…」
私、少しビクッとしてしまった。"何か"にドキドキし始めた。
「ごめん…嫌?大丈夫?…俺、衝動が止められない…」
席を詰めるように寄り、腕を伸ばし抱きしめていた。
「…ごめん、いきなり…。…可能な限りこうしていたい、駄目かな。…嫌なら突き離して」
ドクンドクン鼓動が高鳴るのが自分ではっきり解った。勿論ビックリしたのもある。でもそれ以上に…武蔵さん…。大丈夫…です、でも恥ずかしくて顔が見られない。シートベルトの留金に手を伸ばし外した。ゆっくりと背中に腕を回した。
「あ…高鞍さん…いいかな、このまま聞いて?
二時間はあくまで社長の用が済む迄の予定の空き時間なんです。だから早目に呼ばれたら戻らないといけない…居られる時間は短くなる。そうなると、君を完全に自宅迄送れないかも知れない。最寄りの駅迄しか送れないかも知れない。でもギリギリの時間迄、少しでも一緒に居たいと思ってる。今日出会ったばっかりなのに…もう、ずっと君の事を考えていた」
…武蔵さん。…嬉しい…ドクドクと心臓が騒がしい…。
「私なら大丈夫です。どんな手段でも一人で帰れますから心配しないでください。いざとなったら、道端に放り出して貰っても構いませんよ?」
私も…それくらい一緒に居たい…。
「放り出す?フ、楽しい人だな…有り難う。放り出したりなんかしませんよ?」
「…はい」
「高鞍さん…、下の名前は…何?」
「え…真希、です」
「まき?」
ドキッ…。
「はい、えっと、真実の真と希望の希で、真希です」
「真希…」
「…はい。真希です…」
回した腕に少し力が入るのが自分で解った。