ホテル王と偽りマリアージュ
見下ろされている感覚が、どうにも息苦しい。
肩を怒らせて、声の限り怒鳴るように言い捨てた。
『ふ~ん』と鼻を鳴らす音が聞こえてくる。


「なあ、椿さん。知ってる? 一哉が社長になるアメリカのホテル……本当は、俺に話が来るはずだったんだ」


静かな、抑揚のないトーンの声。
その言葉の意味がわからず、私は一度瞬きをした。


「今俺はヨーロッパでのホテル事業展開に関わる責任者として、その幹部に名を連ねてるんだけど。もちろん、せっかく皆藤の血を引いて生まれたからには、新しいホテルの経営を一から任せてもらいたい。……分家だから譲ったけど、一哉と同じ野望は持ってるんだよね」


頭上から降ってくる低い声に、胸がドキドキと嫌な鼓動を立て始める。


「……どうやら俺も、アメリカのホテル、まだ諦めなくてよさそうだな」


その言葉にギクッとしながら、ゆっくり顔を上げた。


「あの……?」


今の言葉の意味が気になって目を向ける私に、彼は意味ありげに目を細めるだけで、クルッと踵を返す。


「要さん!」

「出てってって言われたから出て行くよ。あ、一哉、起きなくて困るようだったら、ここの黒服にタクシーまで担ぐように頼んでおくから」


要さんはどこまでも意地悪に私の気持ちを掻き乱した挙句、中途半端な言葉だけを残して部屋から出て行ってしまった。
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