ホテル王と偽りマリアージュ
乾いた破裂音が寝室に響く。


「……っ!」


一哉の顔が、私が殴った勢いで軽く背けられた。
白い頬が赤く染まるのを見ていたら、なぜだかわからないけど泣きたくなる。


「な、何度されたのよ」

「……」


一哉は目を伏せ、頬を押さえたまま、黙って唇を噛んだ。


言いたくないのか言えないのか、それとも本当に覚えてないのか。
なんの反応も返ってこない、それが、否定出来ないという証明にもなる。


「一哉が誰と何度どんなキスしても、それ以上のことしても、私が怒る筋合いもないし、文句も言えない。だけど……一哉がそんなだらしない真似、しないでよ!!」


言い捨てると同時に、感極まって涙が零れてしまった。
一瞬一哉が険しい表情を浮かべて、『椿』と私の名を呼びながらベッドサイドに足を下ろす。


「愛し合う夫婦なんでしょ? 人前ではそういう演技してるのに。なんで一哉がぶち壊すの? 要さんにも見られてたのに。『新婚早々浮気するダンナ』の姿なんか晒して、これ以上どう演じろって言うのよ!?」


私が怒り任せに言った言葉は、あくまでも一哉の態度そのものが契約違反だと罵るものだった。


だけど、本当は違う。
それだけじゃない。
私は、本当に浮気された妻の気分になって、傷付いていた。
そうじゃなきゃ、こんなに涙が零れるわけがない。
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