ホテル王と偽りマリアージュ
「……っ」


堪えきれずに嗚咽を漏らした時、私は自分の気持ちに気付いてしまった。


一哉との結婚の契約に、恋愛感情は一切なし。
それが条件だったのに。


彼を、好きになってしまった。
私は確かに一哉に恋心を抱いている。
自覚してしまった途端、私の胸が怖くなるくらいドキドキと加速し始めた。


どうしよう。
抱き締められたままでは、この鼓動に気付かれてしまう。
私が契約外の感情を抱いてしまったことを、一哉が勘付いてしまうかもしれない。


一哉から鼓動を隠すように、私は彼の腕の中で身を縮込めた。
強張る私の身体に気付き、彼の抱擁が少し和らぐ。


「椿?」


どこか探るように肩越しに覗き込まれ、彼とは逆方向に顔を背けた、その時。
リビングから、インターホンが鳴る音が聞こえてきた。


私も一哉も一度ビクッと身体を震わせ、ほとんど同時に寝室のドア口に目を向ける。
地上エントランスの来訪者を伝えるその音が、もう一度大きく鳴り響く。
二度目のインターホンを聞いて、一哉が私から腕を解いた。
そのまま私に背を向け、リビングに出て行く。


彼の温もりが消え、私は思わず自分の身体を自分の腕で抱き締めた。
そうするだけで一哉の体温が身体に浸透していくような気がして、ドキドキするのにやめられない。
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