ホテル王と偽りマリアージュ
「なんだ、起きてるじゃないか。おはよう、椿さん。昨夜はどうも」


明るくそう声を掛けられて、無視し通すわけにいかなくなる。
確かに昨夜要さんが連絡をくれたから、私は一哉を無事ここまで連れ帰れたんだ。
そう考えて、仕方なくリビングに足を踏み出す。


「昨夜はご迷惑お掛けしました」


目を伏せながら軽く頭を下げた。
姿勢を元に戻すと、一哉が忌々しそうに小さく舌打ちしたのがわかる。
思わず彼に気を取られ、伏せていた目を上げてしまった時。


「あれ。……椿さん、もしかして泣いてたとか?」


泣いて赤くなった目に気付かれてしまった。
慌てて再び顔を背けたけど、要さんは確かめようとするように私の方に踏み出してくる。


「要っ!」


一哉が険しい声で止めるのも気にせず、要さんは私の目の前で立ち止まり、わざとらしく背を屈めて顔を覗き込んできた。


「もしかして、一哉の昨夜のご乱心の件で、朝から喧嘩?」


ニヤニヤ笑いながら意地悪く聞かれて、私の肩がビクッと震えた。
一哉もそこはバツが悪そうな表情で、キュッと唇を引き結ぶ。
要さんは私の前に立ったまま、背後の一哉を肩越しに振り返った。


「ただの偽装結婚だって言うのに、『ダンナ』が他の女とイチャイチャするのが許せないのは、女心ってヤツ?」


一哉の方に顔を向けながら、要さんは私に向かってそう言った。
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