ホテル王と偽りマリアージュ
「君が俺に宣言したように……契約外だけど、恋愛したい」


その手を肩にのせ、次の瞬間背中に滑らせ、私を強く抱き締める。


「大事にしたい。優しくしたい。君に、恋をしたい。それだけは今の俺でも確かに感じる気持ちなんだ。……勝手なこと言ってるのはわかってる。でも……」


彼の胸に顔を埋めたまま、ドキドキと高鳴る鼓動の中で、私はフワフワと浮いているような気分だった。
それでも、一哉の胸から直に伝わる彼の鼓動の速さに、なぜだかホッとする。


「はい」


結局のところ、彼の本心はわからない。
告白の返事は先延ばしにされただけ。
そうわかっているのに、そこに一哉の本気が感じられたから。
私は、迷うことなくそう返事をしていた。


「一哉が答え出してくれるの、待ってる」


はっきりした口調でそう続けると、彼が私の頭上でホッと息をついたのが感じられた。


「ありがとう、椿」


そっと胸元から見上げると、一哉らしいはにかんだ笑顔が目に飛び込んできた。
背中に回されていた手が、私の髪を優しく撫でる。
サラッと指に通して弄ぶような仕草だけで、とても大事にされているように思うのに。


一哉が本気で私を大事にすると約束してくれたら、どんなに大事にされるんだろう――。
そんな幸せな期待に胸を震わせ、私は一哉の背中に腕を回し、彼をギュッと抱き締めた。
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