ホテル王と偽りマリアージュ
「頼もしい」

「だって……私を日本に残したままじゃ、気になって仕事にならないって言うんでしょ?」


そう言って探るように上目遣いで見上げると、一哉はちょっと虚を衝かれたように口籠った。
そして、どこか素っ気なく、


「そこまで言ってない」


とそっぽを向く。


その返事に、私は肩を竦めて笑った。
一哉はほんの少し拗ねたように唇をへの字に曲げながらも、再び私に視線を落とす。


「でも、俺のそばにいてくれた方が、安心して走り回れる」


一哉はちょっと照れ臭そうにはにかんだ。
その笑顔と今の言葉が、私の胸に広く深く浸透していく。


一哉がそう言ってくれるのなら、間違いなくそれが私の一番大事な役目。
それなら断る理由なんかどこにもない。


「はい。一緒に連れて行ってください」


彼の瞳をまっすぐ見上げながら、ニコッと笑って見せる。
一哉も、「ん」と頷き、次の瞬間いきなり私を抱き寄せた。
その胸元からそっと顔を上げる私を、彼も顎を引いて見下ろしている。


「卑怯だなんて、思わないで。一哉の仕事に私が必要だと思ってくれるなら、そばにいるのは契約の範囲内じゃない」

「椿……」

「私が一緒にニューヨークに行くことで、一哉が安心して仕事に励めるなら、今はそれが一番大事」
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