ホテル王と偽りマリアージュ
一哉のグレーの瞳をまっすぐ射抜くように見つめながら、はっきり言い切った瞬間、彼の腕にきゅうっと力が籠る。
背中に回された手がツーッと上に上がってきて、私の髪を指で梳きながらうなじをくすぐり始めた。


「一哉、くすぐったいよ……」


ほんのちょっと背を仰け反らせて一哉を睨んでみせる。
そのまま一瞬宙で視線を交差させて――。


私は、一哉の胸に両手を置き、ゆっくり踵を上げて背伸びをした。
彼が私を見つめる視線を断ち切るように先に目を伏せ、軽く彼の唇にキスをした。


触れ合った唇の先で、一哉がわずかに息をのむ気配を感じる。
そおっと目を開けながら唇を離すと、私の目の前で彼がバチッと瞬きをした。


「……驚いた。君からしてくるとか、思わなかった」


言葉通り本当に驚いた様子だから、一気に恥ずかしくなる。
思わず顔を背けようとすると、一哉が背中に回していた手で私の顎をグッと掴み、それを止める。


「無防備になるなって、言ったのに」


どこか素っ気なく短い言葉を呟いて、今度は一哉の方から私にキスをした。
私がしたのとは全然違う、熱く強く押し当てられる温もりに、ほとんど無意識で唇を開いてしまう。
一哉はその隙を見逃さず、深く情熱的に、熱を絡めてくる。


全身に甘く浸透していくキスに、私は酔いしれていた。
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