ホテル王と偽りマリアージュ
シアワセ
四半期末を迎える月、経理部は半端なく忙しい。
総合職社員はほぼ連日決算対応で残業だし、アシスタント職の私や芙美にも、年内に精算する必要がある経費書類が次から次に回ってくる。
フル回転でこなしても、終わらせたそばから書類が回付されてきて、積もっていく一方。


一哉にはああ言ったけど、正直なところ、仕事を片付けていくのは容易ではない。
結構長いことオフィスを不在にすることになるし、私と同じ業務の芙美に負担がかかってしまう。
結局私は、一哉と一緒の出発は諦め、彼を見送ることになった。


とは言え、どんな仕事にも締日というものがある。
締めが到来すれば、その後はどんなに書類が回ってきても、その次に間に合わせればいい。
締日さえ乗り越えれば、芙美への負担も最小限に抑えられる。
私はそれを待って渡米することにした。


無事に締日を越えたクリスマス直前のその日、私はデスクを綺麗に片付けて退社した。


出発は明日。
飛行機の時間は一哉にも伝えてあるし、彼は仕事を調整して空港まで迎えにくると言ってくれた。
仕事の邪魔になってはいけないと思うけど、ネイティヴとスムーズに会話出来るような英語力はない。
ニューヨークは初めてだし、もちろん土地勘なんかないから、ありがたい。
なにより、彼が笑顔で出迎えてくれると思うと、気が逸る。


その日、私は出発を前に、あまり眠れない夜を過ごした。
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