ホテル王と偽りマリアージュ
年末休暇には少し早い時期でも、成田空港の出発ロビーはたくさんの旅行客で賑わっていた。
学校が冬休みに入ったせいか、家族連れの姿も目立つ。


はしゃぎ回る子供の姿を横目に、私は飛行機のチェックインを済ませ、座面の固い椅子に座った。
ズラッと一直線に並んだ椅子には、まだチェックイン前でスーツケースを傍らに置いている旅行客の姿も多い。


搭乗までの時間を持て余しながら、私は一哉にメールを送った。
内容は『これから飛行機に乗ります』というたわいないもの。
日本にいれば絶対送らないどうでもいいメールでも、国境を越えて数時間後に会う約束というシチュエーションが、ちょっとドラマティックで私の胸も弾む。


短いメールを送信して、ふうっと一息ついた。
喧噪とざわめきの中、目の前を行き交う人々にぼんやりと目を向ける。
ここから世界のどこに旅立っていくのかわからないけれど、頭上高くの電光案内板を指差して、言葉を交わしながら忙しなく歩いていく。


すぐ目の前に立った老夫婦の視線につられ、めまぐるしく表示が変化する案内板に、私も目を向けた。
私が乗るニューヨーク行きの飛行機の表示は『ON TIME』と『Check-In』。
まだまだ乗り込むまでには時間がある。
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