ホテル王と偽りマリアージュ
その理由は、一哉に付いて公務のパーティーやら、親族との行事やらに全部出席しなきゃいけないせい。
契約したからには、それが今の私の一番重要な仕事。
今まで通り普通にOLとして働いていたら、それを全部こなすのはさすがに困難だからだ。


「約束通り、一哉に必要な時はちゃんとお供します。……でも、私はその先の生活基盤も失うわけにいかないから」


それが当たり前の考えだと思う。
『離婚』という形で別れる一年後、彼は私に慰謝料を払うことも約束してくれたけれど、そこに甘えるわけにはいかない。


自力で生活を元に戻す為にも、これまでと変わらない職場環境は必要だ。
少しでも早く全てを戻す為に、周りにどんなに言われても旧姓を使い続ける意味がここにある。


「迷惑掛けることはしない。一哉の公務に付き添うのも業務って認めてもらうんだし」


こればっかりは今までと違って甘えさせてもらうけど、今までにない業務が増えた代わりに、私がこれまで抱えてきた通常業務は抑えてもらってる。
だから、働きながらでもなんとかなる自信はあった。


一哉は肩を竦めて、「そう」と短く言った。


「なら、配置換えして俺の専属秘書に就くとかした方がいいと思うけど」

「そ、それもダメ!」


私は慌てて声を上げた。


確かにそれが一番経理部に迷惑を掛けずに済む方法。
だけどそれじゃあ、一年後私はどうしたらいいの。
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