ホテル王と偽りマリアージュ
「俺をガキ扱いか。『嫌い嫌いも好きのうち』って言いたい?」

「よく言い表してると思いますけど」


肩を竦めて、ほんの少しだけ苦笑して見せる。
けれど、要さんは黙って一度目を伏せると、自分に勢いをつけるように立ち上がった。
彼の動きに合わせて、私の目線も自然と上がる。


「そろそろ行くよ。……じゃ」

「あ、はい。お気を付けて」


咄嗟にそう返した私に、要さんはクルッと背を向け革靴の踵を一度鳴らした。
すぐにその場で立ち止まり、大きく私を振り返る。
要さんの行動に首を傾げた私の前に、カバンの中から取り出した茶封筒を優雅に差し出してきた。


「え?」

「君が俺をどう解釈しようが、社長の座も君も奪うって宣言したのは、もちろん遊びじゃない」

「要さん」

「それ、一哉に渡して。俺の仕事の最新実績見込み。社長の座についてもシャレで言ってんじゃないこと、わかるだろうから」


どこか勝ち誇ったような瞳に一瞬躊躇ってから、私は要さんの手から封筒を受け取った。


「じゃ。ニューヨークは寒いから、風邪引かないようにね」


彼は私が両手で封筒を持ち直すのを見守ってから、今度こそしっかりと踵を返した。
堂々と胸を張ってちょっと大股で離れて行く要さんの背中を、私はただ見送るだけ。
その姿が出発ゲートの奥に消えて行くまで、その方向を見つめたままでいた。
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