ホテル王と偽りマリアージュ
「一哉、要さんかなり強気だったけど、それ……」


一哉がなにも言わないから、結局私の方が焦れて身を乗り出した。
彼は少しだけ表情を和らげると、何度か小さく頷く。


「そうだね。俺が調べさせたこと以外に、積み上げられる案件握ってたのかもしれない。で、今はフランクフルトか……。まあ、手の内明かしてくるくらい、余裕はあるってことなんだろうね」


一哉の口調は穏やかで柔らかいものだけど、グレーの瞳はいつもより鋭い。


「要さんが公言達成出来るほどなの?」


思わずそう訊ねた私に、彼は少しだけ目力を弱めた。


「かもね。でも、要がそこまでやっても、俺はそれを上回ればいいだけ。言ったろ? ちゃんとこっちも準備してるから大丈夫」


少しだけ私の方に身を乗り出しながら、彼はいつもの優しい笑みを浮かべた。


「椿がこっちに来てくれたおかげで、俺も安心して動き回れるよ。って……ごめん。なんかそれもおかしいよな。せっかく来たのに、しばらくは観光にも連れて行ってやれないとか……」


言いながら笑顔を引っ込め、申し訳なさそうにこめかみをポリッと指で掻く一哉に、私は肩を竦めながら息を漏らして笑った。


「私のことは気にしないで。一哉に仕事に専念してもらう為に来ただけなんだから」


本心を言えばもちろん、すぐ目前に迫ったクリスマスに想いを馳せてはいたけど、それが目的じゃない。
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