ホテル王と偽りマリアージュ
改めて自分にそう言い聞かせると、私は一哉にニッコリと笑顔を向けた。
彼も優しく目を細める。


「帰国までにはニューヨーク観光に連れて行くよ。まだ建設中だけど、ホテルも見せたいし。それまでに自分で行ってみたいとこあったら、車用意させるから……」

「えっ。いいよいいよ、車なんて!」


観光はしたいけど、全てにおいて送迎付きなんて、あまりにももったいない。
と言うより、本音を言えばちょっと窮屈。
そんな気持ちで顔の前で手を翳しながら、慌てて一哉を遮ったけれど。


「ダメ」


一哉はわずかに眉間に皺を刻み、ナイフとフォークをお皿に置くと胸の前で腕組みをした。


「ここは日本じゃなくてニューヨークなんだよ。地下鉄もタクシーも、日本に比べて絶対危険だから。ニューヨークに来てもらってせっかく安心したのに、椿一人でって思うと別の意味で心配になる」

「う~……はい……」


唇をへの字に曲げて私に言い聞かせる一哉に、肩を竦めながらも頷くしかない。
だって私はたった今、『一哉に仕事に専念してもらう』と自分で言ったばかりだ。
実際今私がニューヨークにいるのも『業務扱い』なわけで、ちょっと大袈裟な観光でも行けるだけありがたい。


それでも私は、よほど不満を隠せずにいたんだろうか。
一哉はクスッと小さく苦笑して腰を浮かせると、腕を伸ばして私の頭をポンと叩いた。
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