ホテル王と偽りマリアージュ
「ちょっとだけ我慢して。有名どころは俺がちゃんと連れて行きたいから。椿一人で回るなら、出来るだけ安全なとこにして」

「うん……わかった。美術館とか博物館とか行ってみる」

「それなら安心。あ。それから」


ガイドブックでいくつもチェックしていた有名な美術館や博物館の名前を、既に頭に幾つも浮かべていた私に、一哉がちょっと口角を上げて微笑んだ。


「夜は一緒に過ごそう。ブロードウェイのミュージカルとか評判のレストランとか、ちゃんと連れて行くからね」

「っ! ほんと!?」


一哉の言葉に、私はほとんど反射的にパアッと表情を輝かせていた。
あまりに素直な反応を見せる私に、一哉もブブッと小さく吹き出した。


「忙しいって言ったって、相手のある仕事だから。いくらなんでも夜まで走り回らないし、年末年始くらい休みになるよ。俺の仕事が終わるまで、一人でほっぽって置いたりしないから」


一哉も楽しそうにそう言って、再びナイフとフォークを手に取った。
そして、その身に沁み付いた、優雅で洗練されたテーブルマナーで食事を進める。


一瞬本気で彼の手付きに見惚れてから、私も気分を上向かせて食事を進めた。


その夜、数日ぶりに、隣のベッドから聞こえる一哉の静かな寝息を聞きながら、私も穏やかな眠りについた。
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