ホテル王と偽りマリアージュ
本当に宅配ピザで夕食を終え、お互い入浴を済ませた後、一哉は『仕事があるから』と書斎に籠った。


私は日付が変わる前に寝室に入り、室内の電気を落とした。
ベッドに一人横になって、携帯を操作する。
数時間前にお母さんから入っていたLINEを見て、指をスライドさせて返事を打った。


『私の方は全然普段と変わらないよ。でも、疲れた~』


お母さんも携帯を手にしていたのか、私が送った途端すぐ既読になり、返事が返ってくる。


『そう、よかった。一哉さんのお食事とか、ちゃんと気にしてあげなさいね』


お母さんは、私と一哉の結婚が契約とは知らない。
一哉との結婚そのものを、私の両親は喜んでくれた。
そんな親に、一年後には別れる約束の結婚だなんて、言えるわけがない。
もちろん、親子三人の生命保険金でも返せない額の借金を抱える羽目になりそうだったことなんか、一言だって言えやしない。


一年後どころか、その先も当たり前に続く娘の幸せを信じ切っているお母さんを思い描き、私は唇を噛んだ。


『頑張りま~す』


明るい言葉と笑顔のスタンプでやり取りを終える。
その後の返事が来ないことをちょっとだけ確認して、私はゆっくり目を閉じた。


結婚後初日でそれなりに気張って疲れていたのか、眠りはすぐに訪れた。
隣のベッドに一哉がいつ入ったのかは、気付けなかった。
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